事業承継の相談で、経営者の方が意外と見落としているのが「株の相続」です。

社長の頭の中では「会社は後継者に継がせる」と決まっていても、株式は法律上ただの財産。相続が起きれば、経営に関わっていない親族にも分散していきます。この記事では、家族経営の会社の面談実例をもとに、定款の「売渡請求条項」という備えを解説します。

自社株の分散は、静かに経営リスクになる

たとえば株主が亡くなり、4人の相続人が4分の1ずつ株式を相続したとします。このうち1人でも会社と距離のある人がいれば、その持分は将来さらにその子へ相続され、会社は「話したこともない株主」を抱えることになります。

問題は議決権です。株式の3分の1超を握られると、定款変更や合併などの特別決議を単独で否決できます。過半数なら役員の選解任すら左右されます。「株が散らばる」とは、経営の決定権が少しずつ外に漏れていくことなのです。

売渡請求条項——相続が起きたら会社が買い取れる

対策としてシンプルで強力なのが、定款に「相続人等に対する売渡請求」の条項を入れておくことです(会社法に基づく制度です)。

これがあると、株主に相続が起きたとき、会社は相続人に対して「その株式を会社に売り渡してください」と請求できます。ポイントは2つ。

  1. 「できる」のであって「しなければならない」ではない——後継者が相続するときは請求せず、経営に関与しない親族に渡るときだけ請求する、という使い分けができます。条項を入れておくこと自体にデメリットはほぼなく、選択肢が増えるだけです
  2. 議決権の計算が変わる——先ほどの「4人が4分の1ずつ」の例で、会社が1人分を買い取れば、残る3人が3分の1ずつに。後継者側で3分の2を固めやすくなり、特別決議を通せる体制を守れます

導入時の注意点3つ

① 買い取りには財源規制がある。 会社が自己株式を取得するには、分配可能額(ざっくり言えば会社の利益の蓄積)の範囲内という制限があります。「条項はあるがお金がなくて買えない」を防ぐには、買取資金の準備——生命保険や法人の運用資産をこの目的に紐づけておく設計が実務的です。

② 請求には期限がある。 相続を知ってから一定期間内(原則1年以内)に、株主総会の特別決議を経て請求する必要があります。相続が起きてから慌てて調べるのではなく、手順を事前に決めておくことが大切です。

③ 「逆向き」に使われるリスクも知っておく。 この条項は、オーナー社長自身の相続にも適用されます。少数株主側が主導して、後継者から株を買い取る決議をする——いわゆる相続クーデターの理論上のリスクです。株主構成によっては条項の設計に工夫が必要なので、導入は司法書士・弁護士と相談してください。

買取資金は「事業承継の資金計画」とセットで

売渡請求で株を買い取るにも、後継者へ自社株を集約するにも、結局必要になるのはまとまった資金です。役員退職金(変額保険を使った準備法)や、認知症による凍結対策と同じ財布の話であり、事業承継は「法務の設計」と「資金の設計」を同時に進めて初めて機能します。

よくある質問

Q. うちは株主が家族だけです。それでも必要ですか?
A. 家族だけの今こそ入れ時です。株主が増えて利害が分かれてからの定款変更は、合意形成が一気に難しくなります。

Q. 定款を変えるのは大変ですか?
A. 株主総会の特別決議で変更でき、登記も不要な場合が多い、比較的軽い手続きです(具体的な手続きは司法書士にご確認ください)。

まとめ

自社株の対策は「相続が起きてから」では選択肢がほぼありません。株主構成の確認から買取資金の準備まで、事業承継の資金設計を無料セミナー・個別相談でお手伝いしています。

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※本記事は一般的な情報提供を目的としたものです。定款変更・売渡請求の手続き・要件は会社の状況により異なります。実行にあたっては司法書士・弁護士・税理士等の専門家にご確認ください。