「退職金規定、うちの会社にはないんだよね」——中小企業の面談で、本当によく聞く言葉です。
実例を一つ。ある会社では先代の社長が亡くなった際、退職金の規定がなかったため、保険金が入ったその場で、会計士を交えた話し合いで金額を決めることになりました。結果的に収まりはしましたが、金額の根拠は後付け。税務調査で問われれば苦しい状態でした。
規定は「もらう時」のためではなく、「揉めない・否認されない」ためのインフラです。
規定がないと何が起きるか
- 税務リスク——役員退職金の損金算入は「相当な額」が条件。規定と算定根拠がないと、金額の妥当性を説明できず、否認リスクが跳ね上がります
- 遺族・後継者が困る——死亡退職の場面では、悲しみの中で「いくら払うか」をゼロから決めることになります
- 従業員との公平性——役員にだけ高額の退職金が出て従業員には何もない、という状態は、承継期の士気に直結します
役員用と従業員用は「別の規定」にする
退職金規定を1本にまとめている会社がありますが、実務上は分けるのが正解です。理由は算定の仕組みがまったく違うから。
- 役員退職金規定——「最終報酬月額×在任年数×功績倍率」が基本形。取締役会・株主総会の決議手続きも定めます
- 従業員退職金規定——勤続年数×基準額(または基本給連動・ポイント制)。就業規則の一部として労基署への届出対象にもなります
一体型にすると、役員の支給のたびに従業員規定まで触ることになり、変更手続きが無駄に重くなります。別立てで作り、それぞれ独立に見直せる形にしておきましょう。
退職金は「3階建て」で設計する
規定(いくら払うか)を作ったら、次は原資(どう払うか)です。実務では3階建てで考えます。
- 1階:外部積立の制度——中退共や企業型DCなど。確実だが柔軟性は低い(中退共の特徴と代替案はこちら)
- 2階:会社の内部準備——法人口座の運用資産や保険。柔軟だが会社の状況に左右される
- 3階:功労加算——業績や貢献に応じた上乗せ。規定に「加算できる」条項を入れておくと運用しやすい
規定で約束する水準は1〜2階で確実に払える範囲にし、3階は「払えるときに払う」設計にする——これが破綻しない退職金制度の骨格です。
作る手順——最初に決める3つのこと
- 水準——モデル退職金(勤続30年でいくら等)を同業・地域相場と自社の体力から決める
- 原資の置き場所——3階建てのどこで、いつまでに、いくら準備するか。役員分は変額保険を使った積立が定番です
- 手続き——役員分は株主総会決議のルール、従業員分は就業規則との整合と届出
ひな形はネットにもありますが、水準と原資が自社の数字とつながっていない規定は、ただの紙です。ここは税理士・社労士・運用側の三者で作る価値があります。
よくある質問
Q. 小さな会社でも従業員規定は必要ですか?
A. 退職金制度を持つなら規定は必須です(就業規則の相対的必要記載事項)。逆に「制度を持たない」選択も合法なので、曖昧に「あるようなないような」状態にしないことが大事です。
Q. 今から作って、過去の勤続分はどうなりますか?
A. 制度開始時点からの勤続でカウントするか、遡って通算するかは設計次第です。遡る場合は原資の手当てとセットで考えてください。
まとめ
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※本記事は一般的な情報提供を目的としたものです。規定の作成・変更は労働法・税務の両面の確認が必要です。実行にあたっては社労士・税理士にご相談ください。
