「自分の退職金は、会社の現金から出せばいい」——そう考えている経営者の方は少なくありません。しかし実際には、役員退職金には「渡せる金額の上限」が役員報酬に紐づいて決まるという壁があり、直前になってから慌てても間に合わないケースがほとんどです。
この記事では、実際に月20万円の積立で退職金準備を進めている経営者の事例をもとに、変額保険を使った役員退職金の作り方と、知っておくべき注意点を解説します。
役員退職金は「いくらでも出せる」わけではない
役員退職金は、法人の損金にできる強力な制度ですが、無制限ではありません。税務上、損金として認められる金額の目安は次の式で計算されます(功績倍率法)。
最終報酬月額 × 役員在任年数 × 功績倍率(社長の場合はおおむね3.0が目安)
つまり、退職金を多く受け取りたければ、退職時の役員報酬月額を上げておく必要があるということです。ところが報酬を上げれば毎月の人件費が増え、会社の利益を圧迫します。「退職金は欲しい、でも報酬は上げられない」——これが多くの経営者が直面するジレンマです。
実例:月20万円×年6%運用のシミュレーション
弊社のお客様である50代の経営者の方は、変額個人年金保険を使って月20万円の積立を続けています。運用開始から約3年、法人全体の運用資産は含み益ベースで年6%前後のペースで推移しており、当初のシミュレーション通りの進捗です。
このまま65歳の退職予定まで(約12年)、年6%で運用を継続できた場合の見込みは約7,000万円。仮に変額保険の長期的な過去実績に近い年10%で推移した場合には、1億円規模になる計算です。
ここで大事なのは、年6%という前提が「控えめな数字」だという点です。変額保険の特別勘定(世界株式型)の長期実績は年10〜12%程度の期間が多く、6%は「10年運用した直後にリーマンショック級の暴落が来た場合」に相当する保守的な水準です。楽観シナリオではなく、悲観シナリオでも目標に届くかで計画を立てるのが退職金準備の鉄則です。
ご自身の数字で試してみたい方へ——毎月の積立額・想定利回り・年数を入れるだけで、下のシミュレーターで将来額を確認できます。
報酬を上げずに退職金の枠を広げる方法
先ほどのジレンマ(報酬を上げると利益圧迫)には、実は解決策があります。
運用が順調に進み、変額保険に十分な含み益が出ている場合、毎年一部を取り崩して、その分を役員報酬の増額に充てるという方法です。
- 保険の一部解約金は法人の収入(益金)になる
- 同額を役員報酬の増額に充てれば、費用(損金)と相殺されて利益への影響はプラスマイナスゼロ
- 一方で報酬月額は上がるので、将来渡せる退職金の枠が広がる
会社の本業の利益を一切削らずに、退職金の上限だけを引き上げられるのがこの方法のポイントです。なお、一部解約時の益金は解約金の全額ではなく、元本部分と利益部分を按分して計算します。この経理処理の詳細は法人が受け取った保険金の経理処理の記事で解説しています。
変額保険には「運用効率型」と「保障重視型」の2タイプがある
ひとくちに変額保険と言っても、実は大きく2つのタイプに分かれます。
- 運用効率型(変額個人年金保険など)——死亡保障は解約返戻金相当額のみ。保障にコストを割かない分、払った保険料が効率よく運用に回ります。この記事の実例で使っているのはこちらのタイプで、「退職金を貯める」ことに目的を絞るならこれが基本です
- 保障重視型(死亡保障付きの変額保険)——最初からまとまった死亡保障が付いているタイプ。運用効率は個人年金型に一歩譲りますが、保障と積立を1本で兼ねられます
使い分けの目安は、会社に金融機関からの借入が残っているかどうかです。借入がある経営者に万一のことがあると、会社にはその返済という大きな負担が残ります。そうした場合には、保障重視型を選んで借入金への備えを持ちながら退職金を積み立てていくという設計が合理的です。逆に借入への備えが別で足りているなら、運用効率型に絞った方が退職金は効率よく育ちます。
変額保険で退職金を準備する際の3つの注意点
① 解約控除がある(短期解約は不利)
契約から一定期間内の解約には解約控除がかかります。積立型では経過年数によって大きく目減りする場合があり、「10年以内に使うお金」を入れる場所ではありません。退職金という長期目的だからこそ合う商品です。
② 積立初期はマイナスに見えやすい
積立型は解約控除の影響で、開始から数年間は評価額がマイナス表示になりがちです。これは運用の失敗ではなく商品の構造によるものなので、短期の数字で判断しないことが重要です。
③ 運用実績によって受取額は変動する
変額保険は運用実績により将来の受取額が増減し、元本を下回る可能性もあります。だからこそ、保守的な利回り前提で計画を立て、定期的に進捗を確認する伴走者がいるかどうかが結果を分けます。
退職後は「払済保険」にして相続対策にも使える
変額保険にはもう一つ、退職金づくりの先まで見据えたメリットがあります。払済(はらいずみ)にできるという仕組みです。
退職のタイミングで保険料の払い込みをストップし、それまで積み立てたお金で死亡保険だけを持ち続ける——つまり退職後は保険料を1円も払わずに、一生涯の死亡保障を残せるということです。
これが効いてくるのが相続の場面です。社長の相続では、次の2つの問題が起きがちです。
- 自社株の評価が高く、相続税が重くなる——業績のいい会社ほど株価評価が上がり、現金がないのに税負担だけ大きくなります
- 財産の大半が自社株だと、均等に分けられず揉める——会社を継ぐ子に株を集中させたい一方で、他の相続人との公平が取れなくなるケースです
ここで生命保険が持つ性質が活きてきます。死亡保険金は受取人固有の財産として、原則、遺産分割の対象になりません。渡したい人に確実に渡せるお金を作れるうえ、「500万円×法定相続人の数」の非課税枠もあるため相続税の負担を抑える効果もあります。自社株を継がない相続人への代償資金や、納税資金の準備としても使える——退職金の器がそのまま相続対策の道具になる、というのが変額保険の使い勝手の良さです。
よくある質問
Q. 退職金の準備はいつから始めるべきですか?
A. 早いほど有利です。複利効果に加え、「報酬月額×在任年数」という枠の性質上、直前の対策では選択肢が限られます。50歳前後までに設計を始めるのが理想です。
Q. 従業員の退職金にも使えますか?
A. 使えます。実際に、法人の証券口座で運用しながら従業員の退職金原資を準備している経営者の方もいます。急な退職時にも一部売却で対応できる柔軟性があります。
まとめ
役員退職金は「最後にまとめて考えるもの」ではなく、報酬設計・運用・税務が絡む長期プロジェクトです。弊社では、退職金の準備と「自分年金」のつくり方に絞った無料の個別セミナーを開催しています。この記事のシミュレーションを、あなたの数字でやってみたい方はぜひご参加ください。
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※本記事は一般的な情報提供を目的としたものであり、特定の金融商品の勧誘を目的としたものではありません。変額保険は運用実績により将来の受取額が変動し、元本割れの可能性があります。税務上の取り扱いは、必ず顧問税理士または所轄税務署にご確認ください。
